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開館6周年特別企画
大東文化大学
ビアトリクス・ポター資料館



 大東文化大学ビアトリクス・ポター資料館の開館6周年記念講演が開催されました。

 2006年に開館したビアトリクス・ポター資料館。2012年4月で開館6周年を迎え、記念講演が開催されました。記念講演開催に当たり、資料館館長より挨拶があり、資料館は年間2万人を超える入場者に恵まれ、6周年を迎えた現在13万人の方々に、古書店のネットワークを通して収集した貴重なビアトリクス・ポターに関する資料を見学していただいていること。また、資料館は、博物館学の実習の場として、100年後の未来の子どもたちのためにも、現存する資料を風合いを損なうことなく、現状を保ったまま維持管理する。そんなノウハウを学生さんたちが学んでいるというお話がありました。

 毎年発行される「資料目録」は、資料館で収集された貴重な資料に関する紹介が掲載されています。毎年4月に開催される開館記念講演の会場で、資料館の資料として配布されます。

 
 「Beatrix Potter Collection 文献目録 2012」(非売品)
 過去の文献目録は、ビアトリクス・ポター・ブックリストのページにて紹介しています。
 http://rapeter.sub.jp/bk/book181.html

 さて、記念講演ですが、講演者の中村柾子先生は、「ピーターラビット友の会」の事務長をなさっている方で、子育て教育に長く関わってこられ、読み聞かせにおいては保育園、幼稚園などの現場で、実践の経験を長く積まれていると紹介がありました。著書に、「絵本は友だち」「絵本の本」(どちらも福音館書店(刊))などがあります。

●4月15日 開館6周年記念講演

   「ピーターラビットが子どもたちに愛され続ける理由(わけ)」

              時間: 13時〜14時
              場所: 埼玉県こども動物自然公園内 森の教室
              講師: 中村柾子先生
                   「ピーターラビット友の会」事務長

 中村先生は、子供たちへの読み聞かせを長く続けてこられた経験から、ピーターラビットとその仲間たちの物語が、子供たちに愛され続ける理由はどういうことなのかを、たくさんのエピソードを織り交ぜながら解説されるところから講演はスタートしました。

 小さな子供たちは、『ピーターラビットのおはなし』の表紙を見て、絵本に手を伸ばしますが、子供が本を広げてぱっと見ただけでその内容が理解できるような分かりやすい挿絵は少なく、子供の反応はすぐ興味を持つか、ソッポを向いてしまうかの両極端。

 子供向けの本なのに、大人が読んであげなければその内容を理解することができない。
 逆に言えば、大人が読んであげることで、ビアトリクス・ポターの描く世界が子供たちに近づいてくるとも解説されていました。

 子供たちに愛される理由として、まずは「絵の素晴らしさ」をあげていらっしゃいました。動物のありのままの姿をしっかりと捉え、その動物が暮らすとすればこのような暮らしぶりなのではないかと思ってしまうほどの生活感がそこには描かれ、生き生きとした動物の姿を見てとれます。

 次に、「物語そのものの面白さ・巧みさ」について。簡潔な出だしは、昔話を思わせる物語の運びで、最初の1ページで、住んでいる場所、名前が子供たちに明確に伝わります。内容も分かりやすく、やってはいけないこと、良いことの善悪、道徳観も含めて分かりやすい。

 『2ひきのわるいねずみのおはなし』なんて、まさしく善悪というものがきちんと伝わり、子供に分かりやすいおはなし。おはなしを通して、毒である悪い部分を残さず写し取り、大人がそれらを読んであげることで子供に伝わり、自然と子供も善悪のモラルを理解していく。

 中村先生があるお母さんから伺ったエピソードのひとつとして紹介してくださったのは、

 『ピーターラビットのおはなし』の冒頭「おとうさんは、じこにあって、にくのパイにされてしまったんです」という部分を、子供に読み聞かせるには残酷と考え、お母さんはその部分を読み飛ばして子供に読み聞かせました。ところが、その子のお父さんは、その部分を読み飛ばすことなく子供に読み聞かせたのです。

 お母さんは、お父さんに対し子供に聞かせるには残酷すぎるのではないかと問いただしたところ、お父さんの返事は「なぜピーターがマグレガーさんの畑に近づいてはいけないのか、子供がそれを理解するために、マグレガーさんに肉のパイにされたという部分を省いてはいけないのではないか」と答えたそうです。

 というエピソードです。

 お母さんの子供に対する愛情から読み飛ばした理由も、お父さんの子供の立場にたって読み飛ばさずに聞かせた理由もどちらも納得です。子供にピーターの行動を理解してもらうためには、肉のパイの部分はとても重要なセンテンスだということに改めて気づくことができました。

 中村先生はこうもおしゃっていました。「どうやって子供がその本を読みこむかは、大人がしっかり読み聞かせることが大事。そして繰り返し読み聞かせること」

 繰り返し読み聞かせることで、冒頭で記載したポターの描く世界が子供たちに近づき、おはなしに夢中になっていくのですね。子供たちが夢中になることのひとつとして、おはなしと挿絵と見比べ様々な発見することをあげていらっしゃいました。

 例えば、『パイがふたつあったおはなし』では、猫のリビーがネズミ入りのパイを作るのに、おはなしには記載されていませんが、挿絵にはネズミ捕りが描かれていること。これでネズミを捕まえるのだと子供たちには見てとれます。

 『フロプシーのこどもたち』では、ピーターがベンジャミン一家に分けてあげるキャベツがないと断る挿絵に、スカートと野菜かごで大きなキャベツを隠していることを発見し、本当は分けてあげるキャベツがあるのと、そんな発見をうれしそうに中村先生に報告してくれるそうです。

 私達大人でさえ、何か新しい発見があると言わずにおれないですものね。目をキラキラ輝かせて、子供たちが語る姿が目に浮かぶようです。

 最後に子供たちに愛され続ける理由として、「豊かな言葉の世界」を紹介してくださいました。

 『こねこのトムのおはなし』で、アヒルのジマイマたちがこねこのトムたちのそばにやってくる時、「ぴた ぱた ぱたり ぱた ぴた よたり ぱた!」とあります。翻訳者の石井桃子さんの豊かな表現力により、読み聞かせる際も大変に魅力的な楽しい言葉の世界が生まれ、子供たちにもそれらが伝わっていくそうです。

 ビアトリクス・ポターの世界は、可愛らしさを好む大人の女性にとって、ピーターラビットの絵は受け入れられやすいのですが、実際におはなしを読んでみると、いい子像だけでは終わらない、生きていく上で毒があることに戸惑い、これを子供に見せてもよいのかと悩みます。

 しかし、いい子像だけで終わらないからこそ、子供は興味を示す。一般的な絵本観を覆すのが、ビアトリクス・ポターが描いた世界であり、客観的、理性的であり、上質なユーモアが盛り込まれ、子供たちに語りかけられている。

 ビアトリクス・ポターのおはなしは、好きか嫌いか意見が分かれますが、作品に描かれている世界は、しっかりとした物語の中に脈々と流れる、かわいいだけじゃない、手ごわい自然の中で、生きるか死ぬかの緊迫感、切実さ、本物の暮らしが描かれ、面白さとスリリングな喜びと魅力がつまっています。

 この魅力こそが、長年愛され続けた理由で、今後もずっと愛され続けるのではと思います。

 先生の講演を聞き終え、子供たちがピーターラビットのことを好きになっていく瞬間を思い浮かべることができました。そして、大人になっても好きでいられる理由も分かった気がします。どの作品も、読み込めば読みこむほど魅力にあふれているからなんですね。

 一時間の講演はあっという間でとても楽しい時間でした。質問コーナーで先生の講演に感動され、次回は大人の発見も聞かせていただきたというリクエストがありました。とても面白そうな企画ですね。いつか実現するといいですね。

 最後に中村先生が寄稿なさっている「母の友」2011年3月号もぜひご覧ください。
 
 P27〜P29 
「容赦なくしっかりした物語だからこそ、子どもは満足するんです。『中村柾子、園児に『ピーターラビット』を読む』」

 ここにも子どもたちがどうしてポターの作品に夢中になるかが書かれています。

 

(2012.5.9 レポート 作成: ラピータ ラピータの部屋コンテンツ)

関連サイト:
大東文化大学ビアトリクス・ポター資料館  http://www.daito.ac.jp/potter/
大東文化大学ニュース「中村柾子さんが講演、ポター資料館6周年企画で」 
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