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大東文化大学 ビアトリクス・ポター資料館
開館8周年記念講演 お菓子やハーブでひも解くピーターラビットの絵本


 
 ビアトリクス・ポター資料館の外壁をつたう白いフジ。訪れた日は、まだ咲き始めでしたが、満開になるのは例年ゴールデンウィーク後半あたりだとか。

 ビアトリクス・ポター資料館が開館8周年を迎えました。オープニングセレモニーに一緒に出掛けた友人たちに、「開館8周年の記念講演に行きましょう」と声をかけましたら、みな口を揃えて「もう8年も経つの?早いね」という言葉がかえってきました。オープニングセレモニーの印象があまりにも強いため、年月の経過に驚くばかりです。

 この資料館は、英国にある17世紀に建てられたビアトリクス・ポターの暮らしたヒルトップ・ハウスそっくりに設計されました。8年が経過した建物外観は、オープンした当初とそれほど見た目も変わらないと思われるかもしれませんが、外壁を覆い尽くすようにフジが立派に育ち、本場のヒルトップ・ハウスと見紛うばかりです。世界に誇れる魅力あふれるポター資料館へと着実に歩みを進め、ファンのひとりとしてとてもうれしいです。

 ポター資料館では、毎年4月2日の開館日をお祝いして、記念企画が開催されます。開館8周年の特別記念講演は、英国文化研究家の北野佐久子先生による「お菓子やハーブでひも解くピーターラビットの絵本」という内容で開催されました。

 開催日:2014年4月27日(日曜日)
 開催場所:埼玉県こども動物自然公園内レクチャールーム

 昨年の記念講演は、動物学者の先生によるピーターラビットの絵本の解説でした。今年は、お菓子やハーブで解説していただきます。

 北野先生は、どのような経緯でお菓子やハーブを研究されることになったのか、きっかけや出会いなどは紹介はありませんでしたが、英国の文化や歴史、そしてビアトリクス・ポター作品に盛り込まれた数々のエピソードを時間の許す限り教えていただきました。

 まずは、イースター。
 日本ではあまり知られていない春のお祭りイースター。その理由は移動祝祭日にあるそうで、春分の後の最初の満月の次の日曜日が祝日となり、今年は4月20日がイースターにあたり、英国では春の一大イベントとして大賑わいするそうです。イースターのテーマカラーは、黄色と決まっていて、理由は春の訪れを感じさせるスイセンの花々があちこちで咲き始めるからなんだとか。

 このイースターに欠かせない、必ず食べるパン「ホットクロスバンズ」は、パンがよく膨らむように十字を切ったというところから、十字架を象られ焼き上げられたものです。

 そうしたイースターにもうひとつ大事な食べ物が、ビアトリクス・ポターの作品に描かれていました。

 『まちねずみジョニーのおはなし』で、田舎ねずみチミーが遊びに来たジョニーに振る舞う料理です。

 
 "You have come at the best of all the year, we will have herb pudding and sit in the sun"
 「The Tale of Johnny Town-Mouse(まちねずみジョニーのおはなし)」より

 切り株のテーブルの上にあるのが「ハーブプディング」です。この料理は、英国湖水地方の春のご馳走「イースターレッジプディング」で、日本語訳では「やくそうのプディング」となっています。一年の中で最も良い時期というのが、まさしくイースターの時期で、その時に食べるご馳走が「イースターレッジプディング」なので、『まちねずみジョニーのおはなし』はイースターの頃を描いているというのが、このお話を読む英国方々にはすぐに分かるそうです。

 「イースターレッジプディング」についての解説が、北野先生の著書「ビアトリクス・ポターを訪ねるイギリス湖水地方の旅」に紹介されているので、少しご紹介します。

 「挿絵では、(略)なにやら緑色をした丸い塊(略)これは、湖水地方では春のご馳走として古くから欠かせないもの(略)ビストートやネトルなど浄化作用のあるハーブを主原料に大麦や卵、バターなどを合わせて作るお団子ような食べ物。イギリス北部地方に残るビストートのカントリーネームが「イースター・レッジ」であることから、このプディングはイースター・レッジ・プディングと呼ばれました。(略)結婚後、ビアトリクスは、夫のヒーリス氏の好物だったこのプディングをハードウィックの羊のローストの付け合せとして作り、楽しんでいたのでした。」

 「ビアトリクス・ポターを訪ねるイギリス湖水地方の旅」 北野佐久子(著)大修館書店(刊)2013年 P100より

 日本ではイースターという祝日があるというこを知っていても、どのようなお祝いなのかを体験したことがない限り分からないので、この挿絵を見てもピン!ときませんよね。そこがとても残念なことですが、このような新たな視点を時間の許す限り語ってくださったのが今回の講演内容でした。

 このような読み方もあるのか!!!と驚きの連続でした。

 『ピーターラビットのおはなし』のカミツレを煎じて飲ませてもらう挿絵では、英国の方々ならば誰もが自分のお母さんの姿を思い起こすのだそうです。「カモミール」は言わずもがな、鎮静作用があり、お腹の不調を整えてくれる日本でもお馴染みのハーブです。カモミールは、先代から受け継がれている民間療法で、ピーターの姿に幼い頃の自分を重ね合わせて作品を読んでいるという事実を、北野先生の解説で知ることができました。

 日本人ならば風邪をひいた時に母が作ってくれたあつあつのしょうが湯や卵酒といったところでしょうか?

 フロプシーたちがブラックベリーを摘む挿絵では、どうしてブラックベリーなのか、そこにもちゃんと理由がありました。これは、英国の生垣のあちこちに天然のブラックベリーが生えていて、9月になるブラックベリーの実を摘む姿が見られるためだそうです。

 これもまた幼い頃の記憶と一致し、より親しみを感じる作品となっているのは、こうした理由があるからなんですね。

 他にもとっても楽しいハーブのお話や、クリスマスプディングの昔からのしきたり、ビアトリクス・ポターの作品を色々な角度から紹介していただきました。英国のフードにこめられた文化や歴史を知ることで、その作品の奥深さをまたひとつ知るきかっけとなります。それは大人が読んで楽しめる作品となりうるということにもつながります。

 ぜひ機会があれば先生の講演会に参加されることをお勧めします。「なるほど!そうだったのかぁ〜」と、思いもよらないようなことをたくさん教えていただくことができ、楽しいひとときを過ごせること間違いないと思います。

 
 こちらがレポートで紹介した先生の近著
 「ビアトリクス・ポターを訪ねるイギリス湖水地方の旅」 北野佐久子(著)大修館書店(刊)2013年

 講演でお話ししてくださった内容がギュッと詰まった1冊です。

 記念講演の会場で毎年配布される「大東文化大学Beatrix Potter Collection文献目録2014」。ポター資料館の新規コレクションについての解説ページもあり、その中で1904年頃の作品「The Amiable Guinea Pig」の原画が、今年5月以降に資料館で展示されるとアナウンスがありました。

 

 今年初めて制作された絵はがきセット、
 「大東文化大学 ビアトリクス・ポター資料館の四季」(非売品)も配布されました。
 四季の移ろいをポター資料館を通じて感じることのできる素晴らしい絵はがきです。
 

 毎年4月とクリスマスに記念企画が開催されるポター資料館ですが、冒頭に紹介したフジが見事な5月初め、セントフォーリアが咲くのは5月末頃、資料館までのアプローチ沿いのガーデンの花々も、ベジタブル&ガーデンでは様々な野菜が収穫を迎え、そして訪れる冬。こうして四季を通じて見させていただくと、まだまだ見るべき景色がたくさんあることに気づかされます。

 それにしてもレポートを作成するのに随分と時間がかかり失礼しました。最後まで読んでくださりありがとうございました。

(2013.5.21 レポート 作成: ラピータ ラピータの部屋コンテンツ)


(外部リンク)関連サイト:
大東文化大学ビアトリクス・ポター資料館  http://www.daito.ac.jp/potter/
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